副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患
VI. 原発性アルドステロン症
1955年、Connにより最初に記載された疾患で、副腎から自律的なアルドステロンの過剰産生が起こり、その結果、水・Na貯留による高血圧と低カリウム血症、代謝性アルカローシスなどの症状を呈する病態である。病型には、片側性のアルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA) (狭義のConn症候群)と、両側性副腎過形成による特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism: IHA)、片側性副腎過形成などが多くを占める。典型例では、低カリウム血症やそれに伴う症状があるが、食塩バランスや薬物の影響により初診時に必ずしも低カリウム血症を示さない症例も多い。
疫学
1999年度に実施された「副腎ホルモン産生異常に関する調査研究」班(名和田新班長)による副腎ホルモン産生異常症の全国疫学調査で、原発性アルドステロン症の1年間の患者数は1,450例と把握されている。
しかし、従来高血圧症患者の0.5%以下と考えられていた本症患者は、血中アルドステロン/レニン比高値をスクリーニング指標として用いると高血圧症患者の5-10%程度に発見されるとの報告が増えている。発症年齢は、男女差は1:1.3とほとんどなく、35-55歳に多い。
病因
PAの病型には、(1)アルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA)、(2)両側副腎過形成(特発性アルドステロン症 idiopathic hyperaldosteronism: IHA)、(3)片側性副腎過形成 (primary adrenal hyperplasia: PAH)、(4)糖質コルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid-remediable aldosteronism: GRA)、(5)アルドステロン産生癌腫(aldosterone-producing carcinoma: APC)などがある。 APAが、約80%を占め、IHAが8%程度を占める。その他の病型は稀である。この中で唯一病因が遺伝子レベルで明らかなのは、GRAである。アルドステロン合成酵素(CYP11B2)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1)は、同じ第8染色体上にコードされる、この2つの遺伝子が不均等交差によりキメラ遺伝子CYP11B1-CYP11B2ができ、このキメラ遺伝子産物が副腎皮質束状層に異所性に過剰発現することにより、ACTHによりアルドステロンが束状層で過剰に産生されるようになり、GRAの病態を呈することになる。したがって、デキサメタゾンによりACTHを抑制すると、アルドステロン産生が抑制されることになる。その他の病型においても、Nurr1/NGFI-Bなどの転写因子の関与が示唆されており、今後詳細な検討が必要である。
症状
高血圧および低カリウム血症が典型例での症状である。低カリウム血症がある場合は、口渇、多尿、多飲、筋力低下、四肢麻痺などを示すことがあるが、低カリウム血症を呈するのはPAの約半数以下であるので、PAの診断における感度・特異度は低い。
診断
日本内分泌学会の「原発性アルドステロン症診断の手引き」(原発性アルドステロン症検討委員会作成)に基づいて、診断は、(1)スクリーニング、(2)確定診断、(3)局在診断の3段階で行う。
A.スクリーニング法
まず、高血圧患者を対象に、血漿アルドステロン濃度(PAC)、血漿レニン活性(PRA)または血漿活性レニン濃度(ARC)の測定を行う(安静坐位)。PAC≧15ng/dl、PRA<1.0ng/ml/hr、アルドステロン/レニン比高値(PAC(ng/dl)/PRA(ng/ml/hr)比>20)の時に疑う。ARCを用いる場合には、ARC≒5xPRAの関係より、PAC(ng/dl)/ARC(pg/ml)>4の時に疑う。β遮断薬内服下ではPRAを抑制するために偽陽性となるが、それ以外の降圧薬内服下ではPRAが上昇することが多く、それでもPRA低値であればPAを疑う。もし降圧薬が必要な時は、2週間カルシウム拮抗薬単剤(+α遮断薬)に変更して採血する。アルドステロン/レニン比は、分母のレニンにほとんど依存しており、薬剤や高齢者の低レニン状態では比が高値となるので注意が必要である。
B.確定診断法
アルドステロン/レニン比高値でも偽陽性があり、低カリウム血症があれば補正後に以下の確定診断を行う。(1)カプトプリル試験、(2)立位フロセミド負荷試験、(3)生理食塩水試験、(4)経口食塩負荷試験、(5)フルドロコルチゾン負荷試験などを行う(日本内分泌学会の手引きでは、(1)、(2)、(3)を推奨)。(1)では、カプトプリル50mgを内服して90分後のアルドステロン/レニン比>20であればPAと診断する。(2)では、フロセミド40mg静注+立位負荷120分後のPRA<2.0ng/ml/hrの時にPAと診断する。(3)では、生理食塩水2リットルを4時間かけて点滴静注し、4時間後に安静臥位で採血し、PAC>8.5ng/dlであればPAと診断する(脳心血管イベントリスクが高い動脈硬化進行例では行わない)。日本内分泌学会では(1)~(3)の中で2種類以上陽性ならば確定診断としている。
C.局在診断法
PAの腫瘍は小さいのが特徴であり、腫瘍径6mm未満の腫瘍はCTでは検出できない。また、40歳以上では副腎偶発腫瘍の頻度が増加し、アルドステロン産生病変とは限らない。そこで、手術を前提とする症例では、ACTH負荷副腎静脈サンプリング検査が必須である。判定は、(1)副腎静脈中アルドステロン濃度がACTH負荷後で1400ng/dl以上であればアルドステロン過剰分泌ありと判定、(2)左右副腎静脈のアルドステロン/コルチゾール濃度(A/C)比を計算し、高値側A/C比÷低値側A/C比(lateralized ratio)≧4の時、高値側の片側病変と判定、(3)左右副腎静脈の低値側A/C比÷下大静脈A/C比<1の時に、低値側は健側副腎と判定、などの基準が示されているが単独の指標で判定できない例がある。
治療
PAと確定診断された時は、手術を希望する場合は局在診断まで行い、片側副腎病変か否かを確定し、副腎摘出術を行う。また、局在診断の結果、両側副腎病変と判定された場合や全身状態から手術不能例では、薬物療法を行う。
1.外科的処置
片側副腎腫瘍に対して、腹腔鏡下副腎摘出術を施行する。
2.薬物療法
原則として片側病変であれば、外科的処置を行うが、手術を希望しない例、手術不能例、両側副腎病変では薬物療法を行う。薬剤として、APA, IHA, PAHに対しては、アルドステロン受容体拮抗薬が第一選択で、降圧が不十分な場合、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬/ARBを併用し、さらに不十分であればサイアザイド系利尿薬あるいはループ利尿薬の併用を考慮する。低k血症に対してはK製剤(塩化K)の経口投与を併用する。GRAに対してはデキサメサゾンを投与する。
予後
APAでは腺腫摘出術後に高アルドステロン血症は是正され、ほとんどの症例で血圧は改善するが、約30%の症例では血圧が正常化しない。これは、手術までの罹病期間や本態性高血圧の合併などが想定されている。高アルドステロン血症は、脳血管疾患や心肥大などの危険因子であることから、早期の診断および治療が重要である。
日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診断の手引き」
(http://square.umin.ac.jp/endocrine/rinsho_juyo/index.html)
・一般医家向け
・専門医療機関向け