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副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患

1.リポイド過形成症(Prader病)

ステロイドホルモン合成の律速段階にあるコレステロールよりプレグネノロンヘのステロイド合成過程に関与するコレステロール移送蛋白であるSteroidogenic acute regualtory proteinに異常があるため、副腎及び性腺におけるほとんどすべてのステロイドホルモンが合成できない病態である。そのため出生時より副腎不全症状を呈し、また46、XYの個体では精巣での男性ホルモン産生障害のため外性器が女性化する。遺伝形式は常染色体性劣性遺伝である。その他、極めてまれにコレステロール側鎖切断酵素の異常によるものもある。

疫学

我が国における先天性副腎過形成症の約3%を占め比較的日本人に多くみられ約100例弱が報告されている。

病因

コレステロールよりプレグネノロンヘのステロイド合成過程はステロイドホルモン律速段階にあり、ミトコンドリア内膜へのコレステロールの移送とミトコンドリア内での酵素反応が関与する。ミトコンドリア内 での酵素反応にはチトクロームP450scc、アドレノドキシン、アドレノドキシン還元酵素が関与するが、これにコレステロールを供給する役割を担う代謝回転の早い蛋白の異常が本症の病因であることが明らかにされた。この蛋白は30Kの蛋白でACTH‐cAMPあるいはLH/FSH‐cAMPに反応して生成される。 現在まで種々のSteroidogenic acute regulatory protein(StAR)遺伝子の異常が同定されている。StAR遺伝子は、染色体の8p11.2に存在し、8kbの長さで7ケのエクソン、6ケのイントロンよりなる。同定されたStAR遺伝子異常としてエクソン7番目にストップコドンをつくる変異が多く見い出されている。その他のミスセンス変異、スプライシング変異、一塩基挿入などの変異が同定されている。

症状

本症はステロイドホルモン合成の初期過程が障害され、性腺と副腎がその障害となり、コルチゾール、アルドステロン、性ホルモンすべてが欠乏する。グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド欠乏のため、出生時より著しい副腎不全症状(哺乳不良、嘔吐、不活発など塩喪失症状)、体重増加不良などをみる。46、XY個体ではLeydig細胞からテストステロン分泌がないため外陰部は女性型となる。通常精巣下降の障害のため、男児では腹腔内、そ径部、大陰唇に停留する。精巣の構造は正常でgerm cellも認められる。46、XX個体では卵巣での卵胞形成は認められる。

診断

副腎不全症状のほか、皮膚色素沈着を、また性表現型は男女とも女性型を呈する。ステロイドホルモン合成の初期過程が障害されるため、塩喪失症状、 副腎不全による循環障害、皮膚色素沈着をみる。46、XY個体では女性の外性器を呈する。精巣は存在し、ミュラー管由来の内性器は存在しない。46、XX個体は正常な外性器、卵巣を有する。二次性徴の発達をみることがある。一方精巣機能の発達はみない。また外性器の男性化はみない。内分泌学的には、ステロイドホルモン合成の初期過程が障害され、性腺と副腎がその障害となる。コルチゾール、アルドステロン、性ホルモンすべてが欠乏する。その結果、ACTHの高値、レニン活性の高値、尿中C19、C21ステロイド低値、更にはACTH負荷ですべてのステロイドの反応はない。LH‐RH試験でLH/FSH の過剰反応をみる。また低Na、高K血症をみる。家族内発症例がかなりの頻度でみられる。

先天性リポイド過形成症診断の手引き
臨床症状
1.副腎不全症状
哺乳力低下、体重増加不良、嘔吐、脱水、意識障害、ショックなど。
2.皮膚色素沈着
全身のび慢性の色素沈着。
口腔粘膜、口唇、乳輪、臍、外陰部に強い色素沈着。
3.外性器所見(注1)
ほぼ全例女性型外性器。
参考検査所見
1.画像検索による副腎皮質の腫大(注2)
2.血漿ACTH高値
3.PRA高値
4.尿中ステロイドプロフィルにおいて、ステロイド代謝物の全般的低下。特に新生児期の胎生皮質ステロイド異常低値(注3)
5.低Na血症、高K血症
染色体検査
遺伝子診断
・Steroidogenic acute regulatory protein(StAR)遺伝子の異常(90%以上の症例で同定される)
・コレステロール側鎖切断酵素(P450scc)遺伝子(CYP11A)の異常
除外項目
・先天性副腎低形成症
・ACTH不応症
・21-水酸化酵素欠損症
・3β水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症
 
(注1)本症では殆どが外性器は女性型であるが、一部外性器の軽度の男性化を示す46, XY女性例(StAR異常、P450scc異常)、外性器が完全な男性型を示す46, XY男子例(StAR異常症)が存在する。
(注2)先天性リポイド過形成症(とくにP450scc異常)でも副腎の腫大を認めない場合があり、その場合先天性副腎低形成との鑑別は難しい。特に治療開始後に副腎の腫大を認めない際に、本症を否定することはできない。遺伝子診断を参考に診断する。
(注3)国内ではガスクロマトグラフ質量分析ー選択的イオンモニタリング法による尿ステロイドプロフィル(保険未収載)が可能であり、診断に有用である。(ただし本検査のみで先天性リポイド過形成症と先天性副腎低形成症との鑑別は不可)。
 
<診断基準>
除外項目を除外した上で、
・3つの臨床症状、副腎の腫大を認めた場合は、診断可能。特に副腎CTにおけるfat densityを伴う副腎腫大は診断的価値が高い。
・注1、注2にあるように非典型例では臨床症状、各種検査所見を組み合わせて診断を行う。但し副腎不全をきたしているときは治療が優先される。ステロイド補充は各種内分泌検査、染色体検査の結果を待たずに行う。症状が落ち着いてから、各種検査結果を総合して診断を確定する。必要であれば遺伝子診断を行う。

治療

本症の治療は、急性期の副腎不全の治療とその後の維持療法とに分けられる。急性期の治療はグルココルチコイド及びミネラルコルチコイド欠乏、脱水、酸血症の矯正、低血糖に対して行われる。維持療法として グルココルチコイドの投与量(mg)は体表面積当たりの1日量で、コートリルで乳幼期には30~40、幼児期には25~30、学童期には25~40を投与する。必要量は個人差が大きいので症例ごとに考慮されるべきである。フロリネフ、食塩 量は塩喪失傾向が強いので通常量より多めに使う。フロリネフは0.1~0.2mg/日を分2で投与する。食塩量は0.1~0.3g/kg/日(最高3g/日)を投与する。男児では異所性精巣摘出を行う。思春期以降は、性ホルモン補充にて二次性徴を出現させる。女児において二次性徴の出現をみる例もある。

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副腎ホルモン産生異常に関する調査研究