トップ > 副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患 > III.副腎酵素欠損症 > 2.3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症

副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患

2. 3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症

副腎,性腺における3β‐水酸化ステロイド脱水素酵素が先天的に欠損するため,副腎不全及び外性器異常をきたす疾患である。遺伝形式は常染色体性劣性遺伝の形式を示す。本症には古典型のほか非古典型も存在する。

疫学

古典型の本症は稀な疾患であるが,この7年間の報告例からみると約100万人に1人の発生頻度と推測される。非古典型の頻度は明らかとなっていない。

病因

古典型の本症は副腎及び性腺の3β‐水酸化ステロイド脱水素酵素が先天的に欠損するために,すべてのステロイドホルモンの産生が障害され発症する。ヒトの3β-水酸化ステロイド脱水素酵素にはアイソザイ ムが存在する。 I型3β‐水酸化ステロイド脱水素酵素は主に胎盤,皮膚,脂肪組織で実現しており,Ⅱ型は主に副腎,性腺で発現している。本症はII型3β‐水酸化ステロイド脱水素酵素遺伝子に変異が認められ,ミスセンス変異.ナンセンス変異,フレームシフト変異,スプライシング変異が同定されている。非古典型には遺伝子異常が見出されていない。そのため古典型の遺伝学的バリアントではなく後天的要因によって発症するものと考えられている。

症状

古典型では3β-水酸化ステロイド脱水素酵素の障害により,グルココルチコイド,ミネラルコルチコイド及び性ステロイドの合成障害とΔ5-ステロイドの過剰産生をきたす。本症では副腎においてグルココルチコイドであるコルチゾールの合成が低下するため副腎皮質刺激ホルモンの分泌過剰,色素沈着をきたす。また,ミネラルコルチコイドであるアルドステロンの合成が低下するためレニンの上昇,塩喪失をきたす。男子では精巣でのテストステロンの合成が低下するため,尿道下裂な どの外性器異常をきたす。女児では副腎からΔ5‐ステロイド系の男性ホルモンが過剰に分泌されるため,外性器の男性化をきたす。塩喪失症状は重篤なものから軽微のものまである。塩喪失型では新生児期から色素沈着,塩喪失症状,嘔吐,脱水症状とともに急性副腎不全症状を呈する。非塩喪失型ではほとんど脱水症状を示さない。男児ではほぼ全例に尿道下裂,停留精巣などの外性署異常を呈する。女児では陰核肥大,陰唇癒合を認めるが,その異常は軽度である。性腺機能についての報告は少ないが,男児では塩喪失型でも思春期が発来し女性化乳房 をきたした症例の報告があり,妊孕性が認められる症例も報告されている。非古典型では出生時には異常は認められず,思春期年齢になり男性ホルモン過剰症状として多毛,ニキビ,生理不順,早発恥毛,骨年齢の促進などの症状を示す。

診断

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症診断の手引き
臨床症状
1.副腎不全症状
哺乳力低下、体重増加不良、嘔吐、脱水、意識障害、ショックなど。
2.皮膚色素沈着
全身のび慢性の色素沈着。
口腔粘膜、口唇、乳輪、臍、外陰部に強い色素沈着。
3.外性器所見
46, XY症例では尿道下裂、停留精巣などの不完全な男性化。
46, XX症例では正常女性型から軽度の陰核肥大,陰唇癒合(軽度の男性化)。
参考検査所見
1. 血漿ACTH高値
2.PRAの高値
3.Pregnenolone/Progesterone、17-OH pregnenolone/17-OH progesterone、DHEA/Δ4-androstenedione比の上昇(注1)
4.低Na血症、高K血症
染色体検査
遺伝子診断
タイプII 3βHSD遺伝子(HSD3B2)の異常
除外項目
・21-水酸化酵素欠損症
・11β-水酸化酵素欠損症
・17α-水酸化酵素欠損症
・POR欠損症
 
(注1) 内分泌学的にΔ5-/Δ4-ステロイド比の上昇がマーカーになるが17-OHP、Δ4-androstenedioneの上昇を認める場合もある。いくつかの検査項目は保険収載されていないが、一部の民間検査機関で測定可能である。ただし生後6ヶ月までは、免役化学的測定-直接法による血中ステロイドホルモン測定は診断に必ずしも有用ではない。(測定に胎生皮質ステロイドの影響を受けるからである。)
 
<診断基準>
除外項目を除外した上で、
・3つの臨床症状を認める場合は診断可能。
・染色体検査は時間がかかるため、副腎不全をきたしている場合は治療が優先される。この場合症状が落ちついてから、各種検査結果を総合して診断を確定する。必要があれば遺伝子診断を行う。

治療

重篤な塩喪失症状を呈する場合は,輸液,電解質補正とともに早期にグルココルチコイド,ミネラルコルチコイドを補充する。グルココルチコイドとしてはコルチゾール,ミネラルコ、レチコイドとしては9α‐フ ルオロコルチゾンが一般に使用される。用量ば臨床症状,血液生化学所見,血中ホルモン値によって決定する。

トップ > 副腎ホルモン産生異常をきたす代表的疾患 > III.副腎酵素欠損症 > 2.3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損症
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究